260922 ホームラン王の進捗

ビスコ in ブラジル―
ホームラン王への道〇
プロ野球チップス―
夏おせち―
証明問題―
失礼クリエイター―
バイオブリッツ―
真・オモコロ自己開示王―
キルミーベイベーは復活するんだ―
自由記入欄―

ホームラン王の進捗

日付・球数・前に飛んだ球・クリーンヒット

9/17 120 79 48

むかしの野球部の仲間たちみたいなおじさんの集まりがいた。野球部出身のおじさんたちより、俺のほうがきれいに当たってるかも。となりで勝手に比べて申し訳ないと思いつつ、ちょっと自信になる。

 

9/18 160 93 51

最近、全身の動かし方がちょっとずつ上達してきたことでスイングに勢いがつくようになってきたと感じる。しかしその反動というか、スイングに勢いが乗るようになったせいでかなり腰に負担がかかってきている。腰の痛みで急に思い出してしまったが、俺、高校生じゃなくて30代半ばだった。他人のことを指して「おじさん」とか言えるような年齢ではない。

いや腰いてえ~ そんで腰こええ~ 腰が痛いと「次のスイングで腰がぶっ壊れてしまうんじゃないか」と思ってしまう。いつか、どこかのタイミングでこの表面張力があふれてしまうのではないかという不安が常によぎる。こんな素人のしょぼいスイングでも数か月で腰が痛くなってくるのに、人生でずっとバットを振り続けているプロの身体ってどうなってるんだ。俺より年上でまだまだ活躍しているプロもいる。とても信じられない。

ひとつだけケガの功名というか、腰が痛くなったことで『股関節でスイングする』ということの意味がわかってきた。腰に頼らず遠心力を生もうとすると否が応でも股関節をうまく使うしかなくなる。

 

9/19 昼 80 22 10

休みの日だったので妻を連れてバッセンに行った。上達した姿を見てもらおうと思ったからだ。

いざバッティングを始めてみると、これがまったく当たらない。「いや違うんです、いつもはもっと当たるんですよ」。空振りするたびに振り返ってそんなことを何度も言う。なぜか人に見られているといつものように打つことができない。ただ後ろで見られているだけで調子が狂うのに、試合の大事な場面なんてもう普段通りのスイングなんかできないんだろうな。

 

9/19 夜 120 70 37

悔しかったので夜にも行った。いつものように打てた。情けない。

 

9/20 

 

 


あけびだ。

無人のフロントに”あけび”が置いてあった。わざわざポップまでつけてここに置いてあるということはたぶんお客さんに向けて「食べていいですよ」ということだと思うのだが、ポップには大きく『あけび』『食べられます🤤』という果物の説明しか書いておらず『ご自由にどうぞ』などのメッセージもないので、見せびらかしているだけの可能性も捨てきれない。いや、絶対に、そんな森のリスたちのマウントみたいなことではなく、ふつうに食べていいんだろうとは私も思うのだが、それにしても、このフロントのあけびをつかんでその場で立ったままムシャムシャ食べられる男が日本にどれだけいるだろうか。俺には無理だった。バキのスペックみたいなヤツじゃないとそんなことできないだろ。

あけびのたたずまいを見るに、たぶんだれも手をつけていない。まあそうだろうなと思う。もし俺がホームランを出したら食べます。


気がついたら世の中もめっきり秋だ。最近はバッティングセンターで120球バットを振っても汗だくにならなくなった。ついこないだまで汗で全身びっしょりになっていたのにな。いまではもう涼しくて風が心地いい。俺、この気温ならいくらでもバットを振れます。思えば、暑い夏が去ったあとのこの感覚をスポーツの秋っていうのだろう。なるほど。スポーツをやってこなかったから知らなかったな。

きのうのように股関節を使うことを意識して打っていく。2枚目のコインを入れたすぐあと、引っ張り方向に打球が強く飛んだ。ボールは直線的に伸び、『HR』と書かれた的にまっすぐ向かっていった。

鈍い衝突音が聞こえる。瞬間、ホームランのファンファーレが場内に鳴り響く。

私は左手につかんだオレンジ色の金属バットをゆっくり肩に置き、その揺れる的をぼーっと見つめる。もうバットを構えていない私をよそに、ストライクゾーンには100キロのボールが投げ込まれていく。私がホームランを打とうが知ったことではないと、ピッチングマシンはコインが切れるまでボールを投げ続けた。

 

ワ~~~!!!

ホームランだ~~~!!!

やった~~~~!!!!

文句なく、いまの私が打てる一番強い打球だった。実際の球場だったらとても客席に届くようなボールではないだろうが、それでも、私にとってはずっと追いかけ続けたホームランだ。そうだ、別にホームランくらい俺だって打てるのだ。今日それを証明することができた。俺は、自分に運動神経がないことを言い訳にしなかった。

後で数えてみると、これは9457球目でのホームランだったらしい。日数にして132日。金額にして8万1400円。「別にホームランくらい俺だって打てる」なんて堂々と胸を張るにはあまりにも時間とお金がかかりすぎている気もするが、まあ、打ってしまえばこっちのもんなんでね。私は今日を境に『ホームランを打ったことがある男』として生きていきます。あざした。

 

フロントへホームランの申告をしに行くとオーナーの奥さんが対応してくれた。ここのバッティングセンターのオーナーはかつて広島カープに所属していた元プロ野球選手で、現場はそのオーナーと奥さん、それに何人かのスタッフで切り盛りされている。


ホームランを打った旨を伝えると、「おめでとうございます」という言葉とともに帳簿に名前を書くよう言われた。一番下に名前を書く。私は今日の13人目らしい。毎日たくさんホームランが出ているんだな。このバッティングセンターにとって、私のホームランは何万回のうちの1回にすぎない。その何万分の1が、私にとっては一生の心の支えになりうるのだから不思議なものだ。


ホームランを記録するポイントカードをもらった。令和8年9月20日。これからはこの4桁をスマホの暗証番号にして生きていきます。

奥さんに「あけび、食べてもいいですか?」とおそるおそる聞いてみたら、いままでは定型的な手続きの流れもあって少し事務的だった奥さんの表情がパッと明るくなった。

「食べてみますか?」


あけびだ。

いままで食べたことのない果物をおそるおそる口に運びながら、奥さんと少し話をした。

「いまは野球をする子も少なくなってしまったけど、ここがなくなったら練習できる場所もなくなっちゃうからね」

やはり今の時代はバッティングセンターを続けていくのもかなり大変なようだった。それでもこうして続けているのは、オーナーの、野球というスポーツへの恩返しなのだそうだ。私はこのバッティングセンターがあったおかげで、いままで苦手だった野球というスポーツが好きになった。もし私がオーナーの恩返しの一部になれていたらうれしいなと思う。


これまでにいくつかバッティングセンターを回ったが、ここまで手入れが行き届いている施設は他にはなかった。どこよりもこのバッティングセンターがいちばん楽しいと断言できる。ピッチングマシンは頻繁にメンテナンスされていて、制球も荒れないしスピードもしっかり出る。なによりホームランの的がしっかり機能していることがうれしい。風で揺れても誤作動を起こさず、しかしボールが当たるとしっかりファンファーレを鳴らしてくれる。バッティングセンターというのは単純な設備の施設に見えても、ここのように利用者が楽しく遊べる環境を維持していくためには見えないところで相当きめ細やかな気遣いが必要になるのだろう。しかもホームランには安くない景品が出る。さらに言うとボールの価格設定も相場よりかなり安い。もしかしたら、日本中さがしてもここより良いバッティングセンターはないのかもしれない。

私はとても運が良かったのだなと思う。私が今日まであきらめずにバットを振ってこれたのはこのバッティングセンターだったからこそだ。

 

毎日バットを振るのはとても楽しかった。バッティングセンターでボールを打つのも、夜の空き地で素振りをするのも、しんどいと思うことはなかった。うまくなっていくのはうれしかった。センスがあろうがなかろうが、きっと上達のよろこびは変わらないのだろう。

結論として、私が学生時代にスポーツを苦手としていたのはただ『経験を積み重ねてこなかっただけ』という、それだけに尽きるなと思った。小学生のころ、まわりの男の子が昼休みにドッジボールやサッカーをやっているなか、私は6年間ずっと自由帳に落書きをしていた。そういう学生生活を送ってきた。そりゃ、そんなやつは体育の授業で大恥をかいたりもするだろう。でも練習すれば俺だってみんなと同じくらいうまく打てる。34歳になってしまったが、それがわかってよかった。

あけびは柿の熟したところのような味がした。

 

 

余談だが、俺がホームランを打ったら目の前で花火が上がった。

は? そんなわけないだろ。ウソ乙。冷めたわ。そういうことやるとここまでの全部がウソだと思われるぞ。

私もそんなわけないと思います。でもウソじゃないんです。信じてください。俺がホームランを打ったら花火が上がったんです。「俺がホームランを打ったら花火が上がったんです」←ウソすぎる。インターネットをナメるな。そうですよね。でも本当なんです。信じてほしい。俺だって、今日までこんなに頑張って、それで最後の日にこんなすべてを台無しにするウソついたりしないって。そりゃ思ったよ俺も。「スーパーマリオブラザーズでクリアしたときじゃないんだから」って。

 

 

 

 

 

 

 
きっと、高校生の俺が打ち上げてくれたんだろう。

 

「260922 ホームラン王の進捗」への3件のフィードバック

  1. おめでとうございます㊗️ 自分のことじゃなくても、誰かの努力が実るのってうれしいですね!

  2. おめでとうございます!!!
    直接関係ない誰かを応援することに懐疑的だったのに、ホームラン王は素直に応援したり励まされたりしてしまいました。
    ありがたい〜

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です